太刀　天田昭次作之
(あまだあきつぐこれをつくる)
平成六年皐月吉祥日(一九九四)

Tachi:Amada Akitsugu

現代・新潟
人間国宝
専用桐箱付き

刃長：76.6(二尺五寸三分弱)　反り：2.6　元幅：3.36
先幅：2.40　元重ね：0.82　先重ね：0.58　穴1

鎬造り、鎬高め庵棟低め、中切っ先。　表裏共に刀樋を茎中程で掻き流す。　鍛え、小板目肌良く詰み、地沸微塵に厚く付き、細かな地景繁く入り、地鉄精良。　刃文、互の目丁子乱れ主体に大房丁子、蛙子風丁子を交え、刃縁匂い勝ちに明るく締まって良く冴え、刃中丁子足が長く、太く入る。　帽子、湾れ調で先小丸に返る。　茎生ぶ、先刃上がり栗尻、鑢大筋違い。　銅に金着せ二重ハバキ。　時代研磨。　白鞘入り。　

【コメント】
天田昭次は、昭和二年、現在の新潟県新発田市本田に生まれ、九歳の時に父貞吉と死別、昭和十五年には上京し、日本刀鍛錬伝習所にて栗原彦三郎の門人となります。この時兄弟子に宮入昭平(行平)がいました。昭和三十年代に入ると頭角を現し、新作刀展では、毎年優秀賞を受賞しましたが、三十三歳の頃に大病を患い、八年の休業を余儀なくされました。昭和四十三年、鍛刀を再開するに当たって、新発田市月岡の温泉街の外れに自宅兼鍛刀場、『豊月山(ほうげつさん)鍛刀場』を構えました。不撓不屈の精神で復活した昭次は、昭和四十七年には無鑑査認定、刀剣界の最高賞である『正宗賞』を三度受賞、同賞三度受賞は、隅谷正峯、大隅俊平に次いで三例目ですが、山城伝(昭和五十二年)、相州伝(昭和六十年)、備前伝(平成八年)と、全て異なる作風で受賞したのは昭次のみです。平成九年には人間国宝となり、平成二十五年、八十五歳にて没。
本作は平成六年(一九九四)、同工六十六歳の頃の作、寸法二尺五寸三分弱、腰反り深く付いた豪壮なスタイルは、鎌倉中期の備前一文字太刀を狙った傑作です。
極めて良く詰んだ最良の地鉄、互の目丁子乱れ主体に大房丁子、蛙子風丁子を交えた焼き刃は、刃縁匂い勝ちに明るく締まって良く冴え、刃中丁子足が長く、太く入っています。現代刀の刃中の働きは、味わい、深みに乏しいものがままありますが、本作は地刃共に見所満載です。
前述したように、同工は平成八年、三度目の正宗賞を備前伝で受賞していますが、本作はそれに勝るとも劣らない出来映えであると確信します。
人間国宝天田昭次、備前一文字写しの会心作、金着せ二重ハバキ付き、専用桐箱に収めてあります。