短刀 傘笠両山子正峯作之(隅谷正峯)
(さんりゅうりょうざんしまさみねこれをつくる)
己未年八月日(昭和五十四年)(一九七九)
(茎棟)仙秀(王偏に秀)彫之(苔口仙秀)(無鑑査)
Tanto:Sanryuryozanshi Masamine
現代・石川
人間国宝
特別保存刀剣鑑定書付き
刃長:28.3(九寸三分強) 反り:0.2 元幅:2.83 元重ね:0.53 穴1
【コメント】
正峯は、隅谷与一郎と言い、大正十年、石川県石川郡松任町(現白山市)の生まれで、立命館大学を卒業後、桜井正幸に学びました。昭和三十一年には、自宅に鍛錬所『傘笠亭(さんりゅうてい)』を構え、以降、『傘笠亭』、『傘笠』、『両山子』と号しています。昭和四十一、二年と連続で正宗賞を受賞し、同年に無鑑査及びに石川県重要無形文化財に認定、昭和四十九年には三度目の正宗賞を受賞、当時これは刀剣界初の快挙でもありました。昭和五十六年には人間国宝認定、平成十年、七十七歳で没。
作風は、一貫して備前伝、鎌倉期の華やかな備前太刀を狙った丁子刃は、独自の美しさ、輝きを放つことから『隅谷丁子』と呼称され、同工の代名詞ともなっています。
本作は、昭和五十四年、正峯五十八歳の頃、寸法九寸三分強、身幅、重ねガシッとした短刀は、南北朝期の備前兼光、倫光辺りを狙ったと鑑せられる会心作です。
互の目乱れを主体に、小互の目、尖り風の刃を交えた焼き刃は、刃縁匂い深く、刃中互の目入り、金筋、砂流しが掛かっています。
表は火炎不動、裏は梵字と三鈷柄附き剣の彫りがあります。短刀の腰元に不動明王と言えば、景光が有名です。正に本作は、古作備前物の良いとこ取り短刀と言えるでしょう。
この見事な彫り物は、苔口仙秀の手によるもので、同工五十七歳頃の作です。
仙秀(王偏に秀)は、大正十一年生まれ、神奈川にある工房『自灯庵(じとうあん)』にて数々の名作を生み出した、現代刀身彫刻の権威として名高い無鑑査彫り師です。平成二十三年、八十九歳で没。平成三十年に亡くなった柳村仙寿(無鑑査)の師匠です。
細部に渡るまで僅かの狂いもない精巧緻密な鏨運びは、正に圧巻と言える彫技であり、この彫り物だけでも相当な勝ちがあります。
昭和、平成を代表する名人による合作刀、共に故人であるため、二度とこの合作刀が作られることはありません。この度、特別保存鑑定も付きました。これは是が非でも押さえて下さい。