太刀 古一文字(生ぶ無銘)
(こいちもんじ)
Tachi:Koichimonji
古刀・備前 鎌倉初期
第十六回重要刀剣指定品
寒山及び探山先生鞘書き有り
刃長:74.6(二尺四寸六分強) 反り:3.4 元幅:2.77
先幅:1.73 元重ね:0.65 先重ね:0.37 穴2
【コメント】
古一文字の重要刀剣生ぶ太刀、鎌倉初期の上品な備前太刀、『後鳥羽院御番鍛冶』を多数輩出した同派作中、最も華やかな出来を示した優品です。
古一文字とは、鎌倉初期に興った福岡一文字一派にあって、その最初期に活躍した鍛冶の総称で、同派事実上の祖である則宗を始め、延房、宗吉、助宗、行国、助成、助延などが有名です。この頃の作風は、鎌倉中期の華やかな丁子刃ではなく、それ以前までの古備前派の作風を踏襲しながらも、一文字派特有の小丁子を主調とした古雅で味わいのある作風を本位としています。また前述の七名は、かの有名な『後鳥羽院御番鍛冶』を務めた名工達です。番鍛冶十二名の内、同派から七名選出されていることが、その高い技量を如実に物語っています。
本作は昭和四十二年(一九六七)、第十六回の重要刀剣指定品、生ぶ無銘で寸法二尺四寸六分強、腰反り高く踏ん張りのあり、小峰に結んだスタイルは、鎌倉初期を下らない優美な太刀姿を示しています。
図譜では『太刀 無銘 一文字』としてあり、解説で『本作は鎌倉初期、いわゆる古一文字の生ぶ無銘の太刀で、姿が良く、地刃も典型的な出来である。この時代の同派の作には、まま生ぶ無銘のものがあって個銘まで明らかにしない。』とあります。
小板目に板目を交えて良く詰んだ地鉄は、所々流れて肌立ち、乱れ映り立ち、小丁子乱れ主体に、丁子、小互の目、小乱れを交えた焼き刃は、特に裏が焼き刃高く、刃縁小沸付いて匂い深く明るく締まり、刃中小足、葉頻りに入り、金筋、砂流し掛かる出来です。
探山先生鞘書きには、『鎌倉初期の古一文字ながら、焼き幅が広い点、丁子の刃形などから、鎌倉中期に於ける同派最盛期の華やかな作風の萌芽を見る感のある優品也。』とあり、寒山先生鞘書きには、『讃岐国高松藩主松平家伝来の一振り』とあります。高松松平家と言えば、『徳川御三家』である水戸徳川家の系統、 これ位の名品であれば、家格の高い名家の伝来品であっても何ら不思議ではありません。
鎌倉初期の生ぶ太刀は何とも姿が美しく、古香な趣のある茎の形状も大変味わい深いものがあります。格調高き古一文字の名作、これは見逃せません。