小太刀 備中国住右衛門尉平吉(以下切)
(吉次)(青江)
(びっちゅうのくにじゅううえもんのじょうたいらのよしつぐ)
嘉暦三年三月日(一三二八)
Kodachi:Bicchunokuniju Uemonnojo Tairano Yoshitsugu
古刀・備中 鎌倉最末期 拵え付き
第六十八回重要刀剣指定品(令和四年)(二〇二二)
探山先生鞘書き有り
刃長:60.9(二尺一分弱) 反り:2.1 元幅:2.67
先幅:1.61 元重ね:0.66 先重ね:0.41 穴2(内1埋)
打ち刀拵え(江戸後期 全長91.2 柄長22 鞘 黒の呂鞘 下げ緒、黒 柄 親鮫に黒柄巻き 縁頭、銘一柳友善 花押 赤銅研磨地高彫色絵、桐に鳳凰図 目貫、赤銅容彫色絵、鳳凰図 鍔 赤銅魚子地据紋象嵌色絵 桐に鳳凰図 両櫃金埋)付き。
【コメント】
青江吉次の重要刀剣小太刀、鎌倉最末期、貴重な俗名年紀入り、この期に於ける同派の特色が存分に示された同工会心の一振りです。
備中国で平安末期から室町期まで大いに栄えたのが青江派で、鎌倉中期頃までの作を『古青江』、それ以降南北朝末期までの作を『青江』と大別しており、『古青江』は、刃沸強く、刃縁やや沈み勝ちの直刃に、小乱れを交えた出来を主体としており、それ以降、鎌倉末期から南北朝初期頃の過渡期の刀工は、沸付きがやや穏やかになる程度、刃縁が締まって明るく冴えた匂い勝ちの直刃、特色ある逆丁子乱れの作風が見られるようになるのは、南北朝中期になってからです。鍛えには、チリチリと杢目立った縮緬肌、周りと比べて黒く澄んだ肌合いの澄み鉄、段映り、地斑映り、筋映りなど、特徴ある働きもまま見られます。
本作は、貴重な青江吉次の在銘年紀入り小太刀、茎尻を僅かに摘まんでいますが、ほぼ生ぶの状態です。
令和四年(二〇二二)、第六十八回の重要刀剣指定品、寸法二尺一分弱、切っ先やや鋭角に延び心、腰反り深く付いた鎌倉末葉のしなやかで上品な太刀姿を示しています。
吉次は、頼次、助次、直次らと共に、鎌倉最末期から南北朝最初期、嘉暦から建武頃をその活躍期とする青江鍛冶の代表工で、在銘品は極僅かですが、重要文化財一口、重要美術品三口残されています。
地沸を微塵に厚く付けて縮緬風となった精良な地鉄は、地色明るく、地斑状の映り、乱れ映り、筋映り、腰元は段映り状となっています。
広直刃調で湾れ、小互の目、小乱れ交じりの刃文は、刃縁締まり気味で所々湯走り掛かり、刃中小足、鼠足、葉良く入るなど、佩裏中央の地に少し鍛え肌等もありますが、これぞ青江の真骨頂とも言える素晴らしい地刃の出来栄えです。
図譜には、『この小太刀は、潤いのある小板目肌に様々な様態の映りが立ち、直刃を得意とする吉次の本領が遺憾なく発揮されている。また同派には珍しい小太刀の作例であり、嘉暦三年紀と右衛門尉を冠する銘文も、資料的価値が高く貴重である。』とあり、探山先生鞘書きにも、『鎌倉末期の青江代表工である吉次の面目躍如たる優品也。』とあります。
前述したように、『青江鍛冶』でも、吉次のように過渡期の刀工は、匂い勝ちではなく、やや沸勝ちな刃を焼く点も一つの見所であり、多種の映りが混在する映りのオンパレードも見応え十分です。青江鍛冶の作をお好みの方には堪らない逸品、銘もすこぶる鮮明、付属の外装も在銘赤銅金具等を使用した上質な作です。