脇差し (額銘)長光(長船)
(ながみつ)
Wakizashi:Nagamitsu
古刀・備前 鎌倉後期 最上作
第四十八回重要刀剣指定品(平成十四年)(二〇〇二)
刃長:52.0(一尺七寸二分弱) 反り:1.45 元幅:2.58
先幅:1.97 元重ね:0.52 先重ね:0.40 穴2
【コメント】
長船長光(額銘)の重要刀剣、焼き幅広い典型的な刃文、最上の備前鍛えに鮮明な乱れ映り、同工最良期に於ける素晴らしい逸品です。
長光は、備前長船鍛冶の事実上の祖である光忠の子で、父が築いた長船派の礎を盤石なものとした名工です。名物『大般若長光』、『津田遠江長光』『熊野三所権現長光』など国宝六口、重要文化財二十九口、重要美術品四十一口、計七十六口もの国指定品は全刀工中最多であり、名実共に備前長船鍛冶の最高峰です。
作風は、正応(一二八八~九三)頃までの前期作と、それ以降の後期作に大別され、前期は前述した名物に見られるような、光忠風を継承した華やかな丁子乱れ、後期は刃縁の締まった直刃調で、小足や丁子足を交える穏やかな作が主体となり、長光の弟と伝わる真長や、子の景光に近い作風へ移行していきます。
年紀作に見る活躍期は、弘安(一二七八~八八)から、嘉元(一三〇二~〇六)までですが、年紀がないものの中には、前述の国宝名物のように、弘安よりも明らかに古いと鑑せられる作もあります。 銘は『長光』、『備前国長船住長光』、『備前国長船住長光作』、『備前国長船住左近将監長光造』などと切りますが、年紀は長銘の場合のみです。
本作は、平成十四年(二〇〇二)、第四十八回の重要刀剣指定品、大磨り上げながら、『(額銘)長光』となって受け継がれてきた同工典型作優品です。
『額銘』とは、磨り上げに際に、無銘になるのを惜しんで銘を短冊状に切り取り、新たな茎部分にはめ込んだ銘のことです。
また図譜には、『(附)元禄十一年本阿弥光忠折紙』とあるように、指定当時は、十三代本阿弥光忠の折紙が付属していましたが、現在は紛失しています。
寸法一尺七寸二分弱、元先身幅の差が少ない上品で美しいスタイルを示しており、地刃健やかで姿の崩れもありません。
小板目に板目を交えて良く詰み、所々上品に肌立つ地鉄は、乱れ映り立ち、焼き頭の丸い丁子、互の目、小互の目等を交えた焼き刃は、刃縁匂い勝ちに小沸付いて明るく締まり、刃中葉、小足が良く入っています。
図譜には、『この脇差しは、小板目肌が良く詰み、地沸が細かに付いた鍛えに乱れ映りが鮮明に立ち、刃文は、この工独特の頭の丸いむっくりとした丁子に互の目等が交じるなど、地刃に同工の特色が著しく、保存状態も良好で、脇差しながら特に優品である。』とあります。
この『頭の丸いむっくりとした丁子』こそ、同工の手癖であり、大きな見所、また鎌倉期の作ですので、当然時代相応の研ぎ減りはあるはずですが、本作の刃は元から先まで健やか、染みたような箇所もありません。
かつては、本阿弥光忠の元禄折紙まで付属していた逸品、額銘とは言え、銘も鮮明で、且つこの銘振りは、弟真長、子景光、弟子長元らの代銘ではなく、間違いなく自身銘です。
この焼き刃の深さ、明るさ、冴えは見応え十分、備前長船筆頭鍛冶の自信作、これぞ長光という典型作をご堪能下さい。