大脇差し 粟田口一竿子忠綱
(あわたぐちいっかんしただつな)
彫同作 宝永五年二月吉日(一七〇八)
Ohwakizashi:Awataguchi Ikkanshi Tadatsuna
新刀・摂津 江戸中期 良業物
第六十四回重要刀剣指定品
刃長：57.8(一尺九寸一分弱) 反り：2.0 元幅：3.20 先幅：2.33 元重ね：0.75 先重ね：0.52 穴2
鎬造り、鎬高め庵棟尋常、中切っ先。 表は珠追い昇り龍、裏には三鈷柄附き剣の自身彫り有り。 鍛え、小板目肌良く詰み、所々流れ心に上品に肌立ち、地色明るく、地沸厚く付き、細かな地景繁く入り、地鉄精良。 刃文、濤瀾風互の目乱れを主体に、小互の目、矢筈風の刃を交え 刃縁沸匂い一際深く明るく冴え、刃中互の目足頻りに入り、金筋、砂流し掛かる。 帽子、直調で先小丸に返る。 茎生ぶ、先深い刃上がり栗尻、鑢筋違いで僅かに化粧鑢付く。 銅に金着せ二重ハバキ。 時代最上研磨。 白鞘入り。
【コメント】
一竿子忠綱による『彫り同作』の重要刀剣大脇差し、華やかな濤瀾刃、『一竿子彫り』を堪能出来る逸品、同工大成期の会心作です。
二代忠綱は正保元年(一六四四)生まれと云い、初代忠綱の子で、浅井万太夫と言い、初銘を忠国、後に二代忠綱を襲名、父と同様、『近江守』受領し、元禄二年(一六八九)からは、『一竿子』を冠するようになります。
活躍期は、延宝(一六七三～八一)から享保(一七一六～三六)まで約五十年に渡り、越前守助廣や井上真改と比肩する大坂新刀代表鍛冶で、また言わずと知れた彫りの名人で、『一竿子彫り』と呼称されるその彫りは新刀随一です。
茎に『彫物同作』、『彫同作』等の切り付け銘ある自身彫りの作は、大変希少価値が高くなります。
作風は、初期は初代風の焼き頭の揃った足長丁子乱れ、『一竿子』銘以降は、互の目乱れ、助廣風濤瀾乱れが多く見られ、直刃もあります。
銘振りは、初期は『粟田口近江守忠綱』、『一竿子』銘以降は、『粟田口一竿子忠綱』、『一竿子粟田口忠綱』、『一竿子忠綱』となります。
本作は平成三十年、第六十四回の重要刀剣指定品、寸法一尺九寸一分弱、切っ先僅かに延び心、反り深めに付き、身幅、重ねガシッとした勇壮な大脇差しです。
見事な『一竿子彫り』のある宝永年紀作で、宝永五年は同工六十五歳の頃に当たります。
小板目肌良く詰んだ精良な地鉄は、所々流れ心に上品に肌立ち、地色明るく、地沸厚く付き、細かな地景が繁く入り、濤瀾風互の目乱れを主体に、小互の目、矢筈風の刃を交えた刃文は、刃縁の沸匂い一際深く明るく冴え、刃中互の目足頻りに入り、金筋、砂流しが掛かっています。
地刃の冴えは同工中最上位と鑑せられ、一部鎬に掛かりそうな程華やかな濤瀾風乱れは、本歌助廣に比肩する出来映えです。
『彫同作』とあるように、表は珠追い昇り龍、裏には三鈷柄附き剣の自身彫りがあります。
その濃厚な意匠は同工特有で、精巧緻密な鏨運びに寸分の狂いも見受けられません。今にも動き出しそうな程、躍動感のある昇り龍は、鱗の一枚一枚にも変化を持たせるなど、正に圧巻と言える彫技を披露しています。また本作は平造りではなく、鎬が高い造り込みにも拘わらず、その稜線を中心として彫っており、仔細に見ると、一部焼き刃の際まで彫りを施してあります。もはやこれは同工のみが為せる業であり、同工の彫技が新刀随一と呼ばれる所以がここにあります。
『一竿子銘』、『彫同作』の重要刀剣は本誌初掲載、同工大成期の華やかな濤瀾風乱れも見事です。
周知の通り、新刀重要は狭き門、且つ脇差しともなれば、かなりのレベルに達していない限り重要になりませんので、粟田口一竿子忠綱の代表作として、自信を持って強くお薦め出来る名品です。
『一竿子彫り』の意匠は様々ありますが、本作の彫りが王道中の王道、絶対に見逃せません。
