薙刀直し刀 (金象嵌銘)長義
(ながよし)
綾なみ
Katana:Nagayoshi
古刀・備前 南北朝中期 最上作 大業物
第六十六回重要刀剣指定品(令和二年)
刃長：68.4(二尺二寸六分弱) 反り：2.2 元幅：3.15 元重ね：0.77 穴1
薙刀直し造り、鎬すこぶる高く、丸棟尋常。 鍛え、板目に杢目、流れ心の肌を交えて良く働き、所々大模様に上品に肌立ち、地沸厚く付き、地景繁く入り、乱れ映り立ち、地鉄精良。 刃文、互の目乱れを主体とし、丁子、小互の目、尖り風の刃を交えて焼きに高低があり、刃縁小沸付いて匂い深く明るく冴え、刃中葉、小足良く入り、繊細な金筋、砂流し掛かり、地に湯走り、飛び焼き掛かる。 帽子、湾れ込んで、先掃き掛け沸崩れて小丸風に返る。 茎大磨り上げ、先切り、鑢切り。 銅に金着せ二重ハバキ(着せに傷み有り)。 時代最上研磨。 白鞘入り。
【コメント】
長船長義(金象嵌銘)の重要刀剣、南北朝中期の薙刀直し刀、その美しい刃形から『(金象嵌銘)綾なみ』と号された相伝備前鍛冶の最高峰による代表作です。
五郎入道正宗によって完成された相州伝は、南北朝期に入ると全国的に波及し、匂い出来を基本とする備前鍛冶にも大きな影響を及ぼしました。備前鍛冶でありながら、沸の働きを一際強調した作風は『相伝備前』と呼ばれ、その代表工として長船長義、兼光、兼長、盛景らが挙げられますが、その筆頭は紛れもなく長義です。
長義は、一説によると、長船真長(長光の弟)の孫とも伝えられており、兄に長重がいます。『正宗十哲』にもその名を連ねる刀工で、重要文化財五口、重要美術品六口を数えます。
作風は、丁子、互の目、角張る刃、尖り風の刃、腰開きの刃等を主体とした華やかな乱れ刃を得意としますが、その中に起伏のある山形の乱れや耳形の乱れを交えるのが特徴で、特に無銘極め場合は、これらが顕著となった烈しい作が多く見られます。
刃文は、匂い出来と、沸出来の二様ありますが、後者は特に相州伝が強調された作風であるため、古来より『備前刀にあって、最も備前離れした刀工は長義也。』と評されます。帽子は、乱れ込んで先尖り風となるものを基本とします。
年紀作に見る活躍期は、貞和六(一三五〇)から康暦二年(一三八〇)まで、南北朝という時代からして、太刀は長寸が多かったため、ほぼ磨り上げとなっており、在銘品は僅少です。しかしながら、短刀では八、九寸ぐらいのものが多く、南北朝らしい平身の大柄な作はほとんど見ません。
銘は『備前国長船住長義』、『備州長船住長義』などと大振りに切ります。
本作は大磨り上げ無銘の薙刀直し刀、令和二年(二〇二〇)、第六十六回の重要刀剣に指定された同工傑出の一振りで、茎表裏には、大振りな金象嵌銘にて『長義』の極め及び『綾なみ』の号が刻まれています。
寸法二尺二寸六分弱、身幅広く、反り深め、元先身幅の差が少ない刀姿は、南北朝期の勇壮なスタイルを示しており、地刃すこぶる健全で、刀身にしっかりとした重量感があります。
板目に杢目、所々流れ心の肌を交えて良く練られた感のある精良な地鉄、高低のある互の目乱れを主体とし、丁子、小互の目、尖り風の刃を交えた焼き刃は、刃縁明るく冴え、刃中葉、小足良く入り、地に湯走り、飛び焼き掛かっています。
茎に刻まれた『綾なみ(波)』とは、『重なり合って寄せてくる波』の意であることから、本作の美しく華やかな刃形を指しています。加えてこの表裏の立派な金象嵌銘が、相当な付加価値となっているのは言うまでもありません。
図譜には、『この刀は、身幅が広い堂々たる姿に、鍛え良く映り立ち、刃文は焼きに高低があり、刃中丁子、互の目、尖り刃を頻りに交え、足、葉が良く入るなど、華やかな作域を示している。更に帽子は、乱れ込んで焼き崩れて返るなど、極めは首肯される。刃縁が明るく、覇気に満ちた出来映えである。』とあります。
この地刃の明るさ、冴えは、鉄質の良さに起因するもので、これに同工の高い技量が加わってこの名品が生まれたものと考えられます。昭和二十六年三月の古い登録証は、神奈川県登録です。
南北朝盛期に於ける相伝備前鍛冶の最高峰が、その実力を存分に示した傑作であり、地刃の健全さ、重量感等々、全てに於いて高い水準が保たれた素晴らしい長船長義です。
