刀 古波平(無銘)
(こなみのひら)
Katana:Ko Naminohira(Mumei)
古刀・薩摩 南北朝期
第六十五回重要刀剣指定品
探山先生鞘書き有り
刃長:71.3(二尺三寸五分強) 反り:2.7 元幅:3.04
先幅:2.30 元重ね:0.77 先重ね:0.65 穴2(内1埋)
【コメント】
古波平の重要刀剣、地刃に同派の特色が顕現された南北朝期の勇壮な一振りです。
波平一派は、古伝書によると、平安後期、大和から薩摩国谷山郡波平の地に移住したと伝わる正国を祖として、江戸末期まで千年余り続く一大流派です。一派は『行安』或いは『安行』を嫡流的に継承し、且つ門人の多くが、『安』や『行』の字を通字としています。
同派の作と鑑せられるもので、南北朝期を下らないものを『古波平』と呼びます。
作風は、一貫して大和伝を基調としており、鎬筋の高い造り込み、総体的に流れて柾心のある鍛え、白け映りの立つ地鉄、地に波状に綾杉風の肌合いが出る場合もありますが、月山や下原鍛冶のように、判然とした渦巻き型にはなりません。焼きの低い穏やかな直刃を主体とし、ほつれ、打ちのけ、二重刃の掛かる出来で、刃縁は潤み勝ちとなります。生ぶ姿であれば、焼き刃が刃区上で焼き落としとなるものも多く、室町期の作でも時折見られます。この焼き落としは、同じ九州古典派と呼ばれる三池光世、豊後定秀、行平などにも共通するものがあります。
本作は、大磨り上げ無銘ながら『古波平』と極められた優品、令和元年(二〇一九)、第六十五回の重要刀剣指定品です。
寸法二尺三寸五分強、大切っ先鋭角となり、腰反りに加えて先反り深く付き、元先身幅の差が少ないスタイルは、図譜にも記載があるように南北朝盛期の勇壮な造り込みを示しています。
板目が柾状に流れて良く詰んだ精良な地鉄は、刃寄りに暗帯を伴う強い白け映り立ち、細直刃調の焼き刃は、刃縁匂い勝ちに小沸付いてやや沈み勝ちに締まり、所々ほつれ掛かるなど、地刃健全で研ぎも良いです。
図譜には、『この刀は、その体配、地刃の出来からして、南北朝期の古波平と鑑することが首肯される一口であり、肉置きも良く保たれているなど、総じて保存状態の良い優品である。』とあり、探山先生鞘書きには、『本作は、総体に柾心流れ、部分的に不規則な綾杉風を形成し、白け映り立つなど、古波平の地鉄の持ち味が把握され、静謐な中直刃を焼くなど、滋味掬すべき優品也。』とあります。
造り込みが何とも好ましく、地刃も見所満載の古波平です。