短刀　若狭守氏房
(わかさのかみうじふさ)
元亀二年二月日(一五七一)

Tanto:Wakasanokami Ujifusa

古刀・美濃　室町末期　業物　拵え付き
特別保存刀剣鑑定書付き

刃長：29.5(九寸七分強)　反り：なし　元幅：2.75　元重ね：0.62　穴2(内1埋)

平造り、庵棟尋常。　表裏共に棒樋をハバキ下で掻き流す。　鍛え、小板目に小杢目、流れ肌を交えて良く詰み、棟寄りに映り強く現れ、地沸厚く付き、地景入り、地鉄精良。　刃文、細直刃調で、刃縁小沸付いて明るく締まり、刃中小足、葉入る。　帽子、直調で先小丸に返る。　茎生ぶ、先栗尻、鑢筋違い。　銅に金着せ二重ハバキ。　時代研磨。　白鞘入り。
合口拵え(江戸後期　全長43　鞘　黒の呂塗に金高蒔絵、扇に沢瀉紋図　下げ緒、茶の唐組蛸足　小柄、赤銅魚子地高彫色絵、鶴の図　柄　出し鮫柄、目釘目貫)付き。

【コメント】
若狭守氏房は、天文三年、関兼房の三男として岐阜に生まれ、程なくして関へ移り、初銘は兼房と名乗りました。弘治二年、病身の長兄石見守国房から『関鍛冶惣領職』を譲り受け、氏房へ改銘、永禄十年に長男飛騨守氏房が生まれた頃には、織田信長の抱え工として活躍、永禄十三年には若狭守を受領、天正四年、信長が安土城を完成させると、翌五年には近江安土へ移住しました。天正十年、『本能寺の変』の後は、岐阜へ戻り織田信孝に仕えましたが、信孝死後は尾張清州へ移り、天正十八年、五十七歳没。
作風は、刀は二尺四寸前後、短刀は一尺前後の大柄なものが多く、板目に杢目交じりの詰んだ鍛え、大模様の互の目乱れ、大湾れに互の目足入る出来、兼房乱れ、『来写し』の直刃も見られます。
本作は、元亀二年、同工三十八歳の頃の作、典型的な『来写し』短刀で、貴重な年紀入りの佳品です。
寸法九寸七分強、良く詰んだ綺麗な地鉄には、棟寄り広範囲に渡って、強い映りが現れ、僅かに小乱れ心の上品な直刃を丹念に焼いています。
南北朝初期の来国光辺りを模した作と鑑せられますが、本作は地刃も良く冴えており、数ある来写しの中でも、作位の高い逸品です。
拵えにある半開きの扇の上に沢瀉(おもだか)を重ねた家紋は、安芸広島藩浅野家の家紋ということから『浅野扇』と呼ばれます。
末備前と異なり、末関鍛冶には年紀作が殆ど見られませんので、大変貴重な若狭守氏房の入念作短刀です。