刀　(太刀銘)水心子正次(花押)
(すいしんしまさつぐ)
安政五年八月日(一八五八)　渡辺恕所持

Katana:Suishinshi Masatsugu

新々刀・武蔵　江戸最末期
保存刀剣鑑定書付き

刃長：80.5(二尺六寸六分弱)　反り：1.8　元幅：3.45
先幅：2.11　元重ね：0.77　先重ね：0.53　穴1

鎬造り、鎬尋常庵棟低い、中切っ先詰まる。　鍛え、小板目肌やや沈み勝ちに詰み、所々流れ心に肌立ち、地沸厚く付き、地景入り、地鉄良好。　刃文、小互の目乱れを主体に、やや角張った刃、尖り風の刃を交え、所々僅かに逆掛かり、刃縁匂い勝ちに小沸付き、刃中小互の目足良く入り、所々金筋、砂流し掛かる。　帽子、湾れ込んで、先やや大丸風に返る。　茎生ぶ、先栗尻、鑢化粧大筋違い。　銅に金着せ二重ハバキ。　時代研磨(ヒケ有り)。　白鞘入り。

【コメント】
水心子正次は、川部北司と言い、大慶直胤に学び、後に直胤の娘婿となりました。一説によると、二代正秀である白熊入道の子とも伝わっています。
生涯正秀銘を名乗ることはありませんでしたが、水心子の号を冠していることから実質的には水心子一門の棟梁として、川部家三代目を継承したことは明らかであり、万延元年(一八六〇年)没と伝えています。
作風は、水心子風と言うよりも、その銘振り、花押、茎仕立てに至るまで、直胤風を踏襲しており、師同様に備前伝、相州伝、相伝備前を得意とします。稀に本荘義胤の彫り物を見ます。
銘は、『水心子正次』、『川部北司正次造』、『出羽山形士川部正次』、『八幡大神造正次』などと切ります。
本作は、安政五年、寸法二尺六寸六分弱の幕末長尺刀、同工晩年の大作です。
小互の目乱れを主体に、やや角張った刃、尖り風の刃を交えた刃は、所々僅かに逆掛かり、刃中小互の目足良く入り、所々金筋、砂流し掛かるなど、如何にも直胤系相伝備前の典型という出来です。
また正次は、『本三枚鍛え』の名手と云われます。『本三枚鍛え』とは、柔らかい芯鉄に硬い刃鉄を合わせ、側面に皮鉄を両面から合わせる鍛接の方法で、古くは相州上工、幕末には清麿一派にも多く見られる鍛刀法です。鉄に粘りが出て強度が増し、より頑丈になるため、実戦に最も適した鍛造方法であるとも言われます。
昭和二十六年三月の古い登録証は東京登録、茎が少し荒れていますが、覇気みなぎる焼き刃を焼いた長尺実戦刀、水心子正次の自信作です。