太刀 山城国綾小路(生ぶ無銘)
(やましろのくにあやのこうじ)
Tachi:Yamashironokuni Ayanokoji
古刀・山城 鎌倉中期
第四十八回重要刀剣指定品
本阿弥日洲先生鞘書き有り
刃長:74.0(二尺四寸四分強) 反り:2.2 元幅:3.12
先幅:1.75 元重ね:0.73 先重ね:0.38 穴2(内1埋)
【コメント】
綾小路の重要刀剣生ぶ太刀、典型的な地刃の出来、太刀姿は、三条、五条派といった古京物と同時代の作と錯覚する程古雅な名品です。
綾小路一派は、京都四条の綾小路にて鍛刀した一派と伝えられ、定利をその筆頭とし、門下には定吉らがいます。定利には東京国立博物館所蔵の国宝太刀一口を始め、重要文化財三口、重要美術品が六口残されています。
定利の活躍期に付いては、どの古伝書に於いてもほぼ文永(一二六四~七四年)頃と定め、同時代の来国行とも親交が深かったとしていますが、定利の作を姿、地刃の出来などから総合的に判断すると、国行よりも一時代古い京物、三条、五条派といった、いわゆる古京物に近いものがあります。そのため近年では、定利の製作年代を鎌倉前期とする見解が強くなっています。
同派の作は、元先身幅に差があり、切っ先小さめ、反りは深いながらも、先はやや緩やかになる太刀姿が多く、焼き刃は基本的に刃幅が狭く、潤み勝ちな沸出来の小乱れに、小丁字、小互の目を交え、乱れの間隔が狭く、地には刃縁に沿って小模様の飛び焼きが点在し、湯走り、二重刃が掛かり、帽子は掃き掛け、沸崩れが多く、鍛えは、柔らかな小板目肌に、杢目、流れ肌、地景交じるなど、前述した古京物に通じるような古調な作風、造り込みを基本とします。
本作は綾小路と極められた生ぶ茎無銘の太刀、寸法二尺四寸四分強、元先身幅に差があり、腰反り深く踏ん張りのある姿ながら、先は反りがやや伏せ気味となって小峰に結んでいます。これは古京物、古備前、古伯耆など、平安末期から鎌倉初期の太刀姿と同様です。
小板目に杢、流れ肌交じる鍛えは総体的に良く詰み、所々肌立ち、細やかな地景を交え、平地には沸映りが判然と立っており、小丁字乱れ主調の焼き刃は、小乱れ、小互の目、角張るような刃を交えて焼いており、総体的に潤み勝ちで乱れの間隔が詰まり、刃中葉、小足、上品な金筋、砂流しを配し、一部焼き頭に沿って細かな飛び焼きが点在するなど、随所に同派の特徴が良く示された一振りです。これでも時代相応の研ぎ減りはありますが、大きな疵なく、姿の崩れもなく、帽子もしっかりと焼き刃が残っています。
日洲先生の鞘書きには『綾小路定利』とあるように、地刃の出来、品格のある美しい生ぶ太刀姿からしても、この個銘極めは納得です。
京物の典雅な雰囲気を存分に味わえる綾小路の優品です。