刀 (太刀銘)肥前国住藤原忠廣
(初代忠吉晩年の献上銘)
(ひぜんのくにじゅうふじわらのただひろ)
Katana:Hizennokuniju Fujiwarano Tadahiro
新刀・肥前 江戸初期
最上作 最上大業物
第三十六回重要刀剣指定品
刃長：71．3(二尺三寸五分強) 反り：1．5 元幅：3．41
先幅：2．59 元重ね：0．79 先重ね：0．60 穴1
【コメント】
初代肥前忠吉の重要刀剣、同工最晩年の『献上銘』注文打ち、世上『志津写し』とも称される美濃相州伝の会心作です。
初代忠吉は、橋本新左衛門と称し、元亀三年生まれ、若年の頃から佐賀藩主鍋島勝茂にその鍛刀技術を認められ、藩工に任じられました。慶長元年、二十五歳の時に、藩命により、一門の専属彫り師宗長と共に京の埋忠明寿門下に入り、慶長三年に帰国すると、佐賀城下へ移り、藩の庇護の元、本格的な作刀が始まります。
銘振りは、慶長十九年頃まで『肥前国忠吉』、以降元和末年頃まで『肥前国住人忠吉作』、寛永元年頃からは『武蔵大掾藤原忠廣』と切り、源姓から藤原姓へ改めています。寛永九年八月、六十一歳没。
新刀最上作、最上大業物鍛冶としても名高く、人気実力共に一門の最高峰、大変技量も高く、来写しの他、志津、直江志津、長船景光、大和手掻、当麻、長義、左文字、青江、相州廣光、秋廣、村正等々、数多くの写し物が残されています。
肥前正系である忠吉の名跡は、幕末明治期まで九代に渡り、初代門人として土佐守忠吉、河内守正廣、出羽守行廣、播磨大掾忠国等々、多くの名工を輩出しました。
本作は平成二年(一九九〇)、第三十六回の重要刀剣指定品、銘に『武蔵大掾』を冠さない、いわゆる『献上銘忠廣』です。
寸法二尺三寸五分強、大切っ先やや鋭角となり、元先身幅、重ねガシッとした堂々たる慶長新刀スタイル、地刃すこぶる健全でズシッと重いです。
『献上銘』とは、藩主鍋島家から出された注文書に従って作られた特注品のことで、公儀(幕府)への献上品のみならず、諸大名への贈答品等としても作られました。『肥前刀大鑑』等によると、注文書には、『銘を切る際は、武蔵大掾を除して切ること。』の他、寸法、姿、出来等に付いて事細かな指定があります。この注文書が出されたのが、寛永六年一月と云われており、同年八月年紀の作から献上銘が見られます。
また献上銘の作は、その性格上、優れた出来でなければならず、『献上銘に駄作なし』の定評があります。その銘振りは、本作の如く必ず大振りで太鏨となります。
本作に年紀はありませんが、図譜にもあるように寛永六、七年頃、同工最晩年の作になります。
小板目肌大変良く詰んだ精良な小糠肌は、地沸微塵に厚く付き、細かな地景繁く入り、小湾れに互の目が連れた乱れ、小互の目、互の目丁子、尖り心の刃を交えた焼き刃は、刃縁荒沸付いて匂い深く明るく冴え、刃中葉、足良く入り、金筋、砂流し頻りに掛かる出来映えです。
当時の注文書にも、『乱れに直刃を交えて志津に見えるように作ること。』といった内容の記述が見られますが、本作が正にそれに当たります。
図譜にも、『この刀は、初代忠吉が鍋島家からの注文書を受けて作刀したもので、世上志津写しと称されるものである。小板目肌が最も良く詰んだ小糠肌、常にも増して地刃の沸が強く、刃中の働きも豊富、初代の写し物の一作風が良く示されて出来が良く、且つ彼の作風を研究する上に於いて資料的にも価値が高い。』とあります。
同工の集大成とも言える最晩年の代表作、最上の小糠肌と相州伝の烈しい乱れ刃の見事な融合、素晴らしい初代忠吉の新刀重要です。
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