脇差し　雲生(無銘)
(うんしょう)

Wakizashi:Unsho(Mumei)

古刀・備前　鎌倉末期　拵え付き
第五十六回重要刀剣指定品

刃長：49.2(一尺六寸二分強)　反り：1.1　元幅：2.71
先幅：2.11　元重ね：0.68　先重ね：0.61　穴2

鎬造り、鎬高く庵棟低い、中切っ先やや詰まり気味。　表裏共に棒樋を茎途中で掻き流す。　鍛え、小板目に板目、杢目を交えて上品に肌立ち、地色やや黒み勝ち、地沸微塵に厚く付き、細かな地景を繁く配し、地鉄概ね精良。　刃文、広直刃湾れ調で小互の目、小丁子、やや角張った刃を交え、所々逆心があり、刃縁小沸付いてやや沈み勝ちに締まり、刃中葉、小足繁く入り、繊細な金筋、砂流し掛かる。　帽子、湾れ調で先小　丸に返る。　茎大磨り上げ、先栗尻、鑢勝手下がり。　銅に金着せハバキ。　時代最上研磨。　白鞘入り。
上脇差拵え(江戸後期　全長74　鞘　黒の呂鞘　黒下げ緒　柄　親鮫に黒柄巻　縁頭、赤銅魚子地高彫色絵、和楽器の図　目貫、赤銅容彫色絵雅楽装束図　鍔　四分一地鋤出彫毛彫　荒波図)付き。

【コメント】
雲生(無銘)の重要刀剣脇差し、地刃健全で、随所に雲類の特色が良く示された典型作優品です。
雲生、雲次、雲重らの刀工は、鎌倉末期から南北朝期に掛けて、備前国宇甘(うかい)庄、現在の岡山市北区御津(みつ)付近で鍛刀したことから宇甘派、若しくは『雲』の字を通字としたことから『雲類』とも呼ばれ、同じく備前国の長船鍛冶とはその作風を異にする刀工集団です。
作風は、小板目良く詰み、直刃調で刃縁締まる来風の出来、板目が肌立ち、直刃に逆掛かる刃を交えて良く沸付いた青江風の出来の二様に大別され、在銘品であれば、鑢目が大筋違いとなるのは青江風であり、逆鏨を多様する銘字なども大きなポイントです。
本作は無銘ながら『雲生』と極められた優品、平成二十二年(二〇一〇)、第五十六回の重要刀剣に指定されています。
磨り上げの際に無銘になるのを惜しんで額銘となっていますが、現在は判読不明です。
雲生は一派の棟梁で、雲次の父とも兄とも伝えており、重要文化財六口、重要美術品九口を数える名工で、雲次と共に京へ上り、後醍醐天皇の御番鍛冶を務めたと云います。
年紀作は皆無ですが、雲次に正和(一三一二～一七)、文保(一三一七～一九)、建武(一三三四～三六)の年紀作がありますので、その活躍期はほぼ明確となっており、銘鑑等によると、乾元(一三〇二～〇三)頃としています。
寸法一尺六寸二分強、切っ先やや詰まり気味、反り浅め、元先身幅の差が少なく重ね厚めのスタイルは、大磨り上げながら鎌倉末葉の雄渾な太刀姿を未だに留めています。
地色やや黒み勝ちで精良な地鉄は、細かな地景を繁く交えて良く働いており、広直刃湾れ調で小互の目、小丁子、やや角張った刃を交えた刃文は、所々逆心があり、刃中葉、小足が繁く入るなど、地刃は如何にも雲類らしい典型的な作で、重ねのしっかりとした姿が何とも好ましいです。
前述した重要文化財指定品に、寸法二尺五寸三分の生ぶ在銘太刀がありますが、本作はそれに良く似た出来、おそらく同様の寸法、スタイルであったと想像します。
図譜にも『この脇差しは、地刃に雲生の特色が良く現れており、同作極めとして　身幅の広いしっかりとした造り込みであり、平肉が豊かで総体の保存がすこぶる良く、刃文も刃幅広く刃中頻りに働き、脇差しながら特に優品である。』とあるように、無銘脇差しで重要に指定されていますので、状態の良さはご理解頂けるかと思います。
加えて付属の外装が何ともお洒落、金具の雰囲気、色合い等々、刀身に相応しい素晴らしい作です。
鎌倉末期に於ける雲類典型の地刃を存分に堪能出来る一振り、備前国宇甘雲生の自信作です。　