刀　平安城長吉
(へいあんじょうながよし)

Katana:Heianjo Nagayoshi

古刀・山城　室町後期
第三十八回重要刀剣指定品
探山先生鞘書き有り

刃長：76.2(二尺五寸一分強)　反り：3.2　元幅：3.17
先幅：2.13　元重ね：0.61　先重ね：0.47　穴2(内1埋)

鎬造り、鎬高め庵棟尋常、中切っ先やや鋭角に延びる。　表は草の倶利伽羅、裏は梵字、護摩箸、蓮台を重ね彫りにする。　鍛え、小板目やや沈み勝ちに良く詰み、所々流れ心に上品に肌立ち、地沸良く付き、地鉄概ね精良。　刃文、腰元は小湾れに尖り風の刃を交え、その上は直刃調となり、刃縁匂い勝ちに小沸付いてやや沈み勝ちに締まり、刃中葉、小足繁く入り、所々繊細な金筋、砂流し掛かる。　帽子、湾れ調で先小丸に返る。　茎生ぶで先細って舟形、先刃上がり栗尻、鑢勝手下がり。　銅に金着せ二重ハバキ。　時代最上研磨。　白鞘入り。　

【コメント】
平安城長吉の重要刀剣、千子村正の師と伝わる名工、典型的な地刃の出来、自身彫り物のある同工傑出の一振りです。
平安城長吉は、三条吉則と並ぶ室町期の山城鍛冶代表であり、銘鑑によると、南北朝期から同銘が続いていますが、現存作は室町期の作と鑑せられるものばかりです。中でも文明(一四六九～八七)から永正(一五〇四～二一)頃の長吉が最も技量優れ、千子村正の師とも伝わります。
作風は、二代村正に酷似した箱刃に尖り刃交じりの末関風の出来、来風の美しい直刃、長谷部風の烈しい皆焼刃、小湾れに互の目交じる出来、互の目丁子乱れもあり、表裏の刃文が良く揃う辺りも千子風です。
造り込みは、刀、短刀、槍、薙刀など様々で、彫り物も大変上手です。草の倶利伽羅などは、村正にも全く同様の意匠があることから、両者が近しい関係であり、年代的に見ても長吉が先輩格に当たるのは間違いないでしょう。
本作は平成四年(一九九二)、第三十八回の重要刀剣指定、寸法二尺五寸一分強、切っ先やや鋭角に延び心で、先反り深く付いた勇壮な太刀風の一振りです。
年紀はありませんが、銘の横棒の最初と最後の打ち鏨が強く入っている銘振りは、同工後期作に当たるため、永正頃の作と鑑せられます。
この時代には、末備前物を中心として、寸がやや詰まって二尺前後で先反り付き、片手の抜き打ちに適するように茎の短い打刀が流行しましたが、本作のような長尺の作は珍しく、特注による入念作であることは間違いありません。
小板目やや沈み勝ちに良く詰んだ精良な地鉄、腰元は小湾れに尖り風の刃を交え、その上は直刃調となる刃文は、刃縁やや沈み勝ちに締まり、刃中葉、小足繁く入り、所々繊細な金筋、砂流し掛かる出来です。
腰元のみ乱れ調で表裏良く揃った刃文、彫り物、先の細った舟形の茎など、銘を見なければ、長吉か村正か判別し難いですが、地鉄を見ると、長吉の方が京物らしくより詰んで上品です。村正は板目が柾掛かって流れる肌が必ず現れ、良い意味での荒さがあります。
特筆すべきは彫り物、表は草の倶利伽羅、裏は梵字、護摩箸、蓮台を重ね彫りにしています。特にこの草の倶利伽羅は、長吉の真骨頂とも言える意匠で、前述した重要美術品の村正の刀(永正十年作)にもこれと同じ倶利伽羅があります。草の倶利伽羅と言っても様々ありますが、両者の倶利伽羅は細部に渡って全く同様であることから、その関係性を裏付けるものになるかと思います。
図譜には、『この刀は、身幅広く先反りの目立つ室町後期の打刀姿を示している。小板目の良く詰んだ京物らしい精緻な地鉄、表裏の揃う刃文、腰元に詰まった濃厚な彫り物など、全てに平安城長吉の特色が著しい典型作である。』とあり、探山先生鞘書きにも、『本作は、典型的な地刃の出来、彫り物等、間然する所がなく(非の打ち所がない)、同作中にあって最高水準を示す代表作也。』とあります。
同工には刀、平脇差し、短刀、槍等々、スタイルは様々ありますが、これだけ長尺で地刃健やかな作は初見、且つ代名詞的な草の倶利伽羅まであるとなれば、　これを見逃す手はありません。
平安城長吉の代表作としては勿論のこと、室町期の京物の代表作と成り得る不朽の名品です。