刀　吉岡一文字(無銘)
(よしおかいちもんじ)

Katana:Yoshioka Ichimonji

古刀・備前　鎌倉最末期
第六十四回重要刀剣指定品
探山先生鞘書き有り

刃長：68.3(二尺二寸五分強)　反り：2.3　元幅：2.85
先幅：1.71　元重ね：0.79　先重ね：0.42　穴2

鎬造り、鎬高く庵棟低い、中切っ先。　鍛え、板目に杢目を交えて良く詰み、地沸厚く付き、乱れ映り鮮明に立ち、地鉄概ね精良。　刃文、互の目丁子乱れを主体とし、大房丁子、逆心の刃、小互の目、尖り心の刃を交え、刃縁匂い勝ちに小沸付いて明るく締まり、刃中丁子足繁く入り、随所に金筋、砂流し掛かる。　帽子、乱れ込んで先尖り心に返る。　茎大磨り上げ(表に朱書きの痕跡あるが判読不明)、先切り、鑢切り。　銅に金着せハバキ。　時代最上研磨。　白鞘入り。　

【コメント】
吉岡一文字(無銘)の重要刀剣、腰反り深い美しい姿、同派中最も華やかな部類の会心作、鎌倉末葉に於ける備前一文字太刀です。
一文字派は、鎌倉初期、古備前派に次いで現れた備前鍛冶の流派で、以降南北朝期掛けて福岡、吉岡、片山、岩戸一文字らが活躍しました。これらが一文字と呼ばれる由来は、茎に『一』と切ることに因りますが、『一』とだけ切るもの、『一』の下に個銘を切るもの、個銘のみの場合もあります。中でも吉岡一文字派は、吉井川左岸に位置する吉岡庄(現岡山市東区瀬戸町万富付近)にて鍛刀したため、この呼び名があります。
代表工には、助光、助義、助吉、助次、助秀などがおり、その大半が『助』の字を通字としていますが、在銘品は僅少です。
また同派鍛冶には、前述したように『一』の下に個銘を切る作も多く見られますが、極稀に『一』に年紀のみ添えた作もあります。
同派の作風は、国宝指定の助光の生ぶ在銘太刀のように、福岡一文字を思わせる大模様で華やかな丁子乱れもありますが、多くはそこまで大模様とはならず、乱れの中に互の目が目立ち、焼きの高低が少なく、やや小模様な丁子刃を主体とするのが通例となります。重要美術品指定の助義の短刀など、直刃に足の入る穏やかな作もあります。
本作は平成三十年、第六十四回の重要刀剣指定品、鎌倉最末期、同派最盛期に於ける華やかな会心作です。
寸法二尺二寸五分強、腰反り深く付いた凜然たる太刀姿は、当時の姿をほぼ留めており、茎表には朱書きによる極めの痕跡がありますが、現在は判読不明となっています。
良く詰んだ精良な地鉄には、乱れ映り鮮明に立ち、互の目丁子乱れを主体とした焼き刃は、大房丁子、逆心の刃、小互の目、尖り心の刃を交え、刃縁明るく締まり、刃中丁子足繁く入り、随所に金筋、砂流しが掛かっています。
鎌倉末葉の在銘太刀でありながら地刃健全、図譜にも『吉岡一文字の特色が示されており、同派中華やかな刃文を披露し、地鉄の映りと相俟って実に見事な一口である。』とあります。
吉岡一文字の最盛期に於ける代表作となる名品、素晴らしい一文字丁子をご堪能下さい。